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January 16, 2009

「悼む人」

Dscf3560第140回直木賞天童荒太の「悼む人(文藝春秋)」に決まった。今年は山本兼一の「利休にたずねよ」と2作での受賞となる。ちょうど「悼む人」を読み終えたばかりだったので、今回の受賞がこの作品だと知ってとても感慨深かった。
天童荒太は「永遠の仔」を読んで以来忘れられない作家となった。親から虐待を受け、心に傷を持ちながらもひっそりと生きていこうとする主人公たちの愛と哀しみ。とても重たいテーマではあったが、最後に希望を見出すことができる素晴らしい作品だった。読み終えてからしばらくの間、ずっとその作品の余韻にひたっていた。
今回の作品は、同時多発テロの報復措置としてアメリカが軍事攻撃を始めたことが、創作のきっかけになったそうだ。「悲劇の連鎖を食い止める砦として、自分や愛した人のことを覚えていて、ただ悼む人がいてくれれば、という思いが生まれたのだと思います」。
主人公の静人は事故や病気で亡くなった知らない人たちの死を忘れないために、彼らが亡くなった場所に立ち、悼むという行為を旅をしながら続けている。何のために?と質問されてもその答えはわからない。ただ彼らが生きていたこと、その事実を心に刻んでいきたいのだという。誰に愛されていたのか、誰を愛していたのか、どんなことをして人に感謝されたことがあったのか・・・その3つを死者の回りの人たちに聞いて、その後、彼らが死を迎えた現場に祈りをこめて立つ。
静人の旅の途中、三流週刊誌の記者は反発しながらも彼の行為に惹かれていき、夫を殺した女性は死を悼むということで初めて愛というものを知り、またガンに侵された静人の母はひたすら彼の帰りを待ち続ける。悼むとはどういうことか、死とは何か、深く答えのない永遠のテーマを天童荒太は丁寧に探っていく。
人間の命の連なりと愛を、真正面から真摯に書こうとする作者の姿勢は、小説家というよりもまさに求道者のようだ。ベストセラー作家の中にこんな作家がいたなんて・・・。いや、そんな思いが根底に流れているからこそ人々に伝わって、彼の作品が多くの人に支持されていったのだろう。
表紙は「永遠の仔」の時と同じ、彫刻家舟越桂氏の作品を自ら撮影した写真を使用。その姿は作者の描く静人そのもののようだ。構想から7年という歳月をかけて、様々な思いを重ねながら生まれてきた作品は生と死、愛と受容・・・魂の深い部分で人々に共感をよぶことと思う。
それを宗教とか癒しとかいう言葉では決して括ることのできない天童荒太の世界観は、何かこれからの私たちのありようを示唆しているような気がする。

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