古民家スタイル
温かでポカポカのお天気だった今日一日。朝、西側の梅の木にほんのいくつかだが花が咲いているのを見つけた。ようやく咲いてくれた。枝を見上げればいちめんに小さなつぼみたち。これが満開になったら見事だろうなあ。苔が生えるほど古くて大きな梅の古木が2本。枝は長く天に向かって伸び、一番先は古民家の瓦屋根に届いている。
今日はたくさんの方が来て下さりとても忙しかった。そんな中で私の恩人とも言える小児科医の池亀さんが松戸から来てくださった。私が宗吾霊堂前に店を開業する時、生活公庫から開店資金を借りることにした。その時、どうしても保証人をつけなければならず、何人もの人にお願いしては断られた。もっともなことだ。私がコケたらその借入金を私に代わって返済しなければならないからだ。
もうこれ以上誰もいないという時、フリマなどの出店で何度かご一緒したことのある池亀さんに直談判。当時、店の傍ら、休日に出店したフリマに持っていったアジアの服を買ってくださったり、デパートのギャラリーでの展示会に来てくださったり、お客様を紹介して下さったりといろいろ助けていただいた方だ。
ただ保証人をお願いするほど親しいという関係ではなかった。公庫への申請書類を持って、昼休みの診療室に訪ねて行った日のことは今でもよく覚えている。
「この仕事をすることはあなたへとってのチャンスだと思うの?」
「はい。少なくとも今までと同じようにアジア雑貨だけを扱う仕事よりも、飲食部門を始めることでお客さんの層は広がると思うし、スペースも広くなるので、いろいろなことができると思います・・・」
「それで子供たちと一緒に生活していく目処はたっているの?」
「やってみなければわかりませんが、ここに事業計画書を書きました。アジア雑貨の販売、自然食のお食事と喫茶の売上、貸しスペースの使用料、それらを合わせると、家賃と借入金の支払、人件費、私の給料などが捻出できると思います」
「どうしてもやってみたいの?」
「はい。自分の住んでいる家のすぐ下にある物件ですから、通勤時間もかからないので、子供たちを育てながらできると思います」
「・・・そう。じゃやってみたら。600万円という金額はもし何かあったとしても、私にとって返せない額じゃないから。私が保証人になることであなたの夢が叶うというなら、私が判子を押してあげるわ」
そして最後にこう言われた。
「シングルマザーの女性が社会の中で生きていくのは大変なことよ。能力があってもそれを生かせる場は本当に少ないの。それにチャンスもそう簡単には見つからない。だけど、あなたにとってこれがチャンスなのだとしたら、しっかりそのチャンスを生かしてね。そしていろんな大変さに負けないで頑張ってほしいな。それが同じシングルマザーにとってすごく励みになるのよ」
池亀さんが保証人を引き受けてくださったから、私は公庫の借り入れができた。そしてレストランを開くことができた。事業計画通りには全くならなかったけど、今、古民家での暮らしができるのも、あの時、レストラン業を起業したからだ。だから私は決めた。いつか誰かが必死の思いの中で選択したことを、応援できる日がきたら、私も同じようにそのチャンスを生かしなさいと、後押しできる人になろうと。
池亀さんは開業医の傍ら、古着を通してパキスタンの職業訓練校の支援活動をしたり、夜間中学、派遣や日雇い労働者の支援などいつも社会の底辺に生きる人たちの活動に賛同し、ご自身でもフリマを開いたり、古着を販売したりと、息の長い地味な活動をされている。
公庫の借入金がまだ返済し終わらないまま移転を決めた時、ご報告がてらに手紙を書いた。さぞ驚かれたことだろう。でも私の選択を否定されることはなかった。今日、久しぶりにお会いして、古民家の賑わっている様子を見ていただけてよかった。
ちょうど今日届いた雑誌「古民家スタイル」に掲載された風楽のページも真っ先にお見せすることができた。そして仕事の合間をぬってここに至るまでの一部終始をお伝えすることができた。
相変わらず池亀さんの関心は高齢者、障がい者、シングルマザー、派遣労働者、在日の外国人たちなどの生きにくさなどにある。
「ずっと同じ施設やホームなどにいるんじゃなくて、たまには違う場所に行って息抜きしたいという人たちがいたら、そういう人たちもこの場所に泊まれるようになったらいいね」なんて言われていた。
残りの借入金はあと130万円。ようやくゴールが見えてきた。まずはそれをキッカリと返済すること。そして最後の支払が終わった日には、まっさきに池亀さんのところへご報告とお礼に伺おう。その日までもうしばらくがんばらないと。
*「古民家スタイル」(ワールドフォトプレス1800円)。本屋さんで見つけたらページをめくってくださいね。「古民家の食事処」の特集です。カラー4ページにわたって「ここはどこ?!」って思うほど、ものすごくキレイに撮っていただきました。
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