自選 谷川俊太郎詩集
昨日、東京で会った友達が帰りに神保町の東京堂書店で「自選 谷川俊太郎詩集」(岩波文庫)を買ってプレゼントしてくれた。今年に入って出たばかりなのだが、人気があるのかすでに3刷目だ。
谷川俊太郎さんと言えば、60年数年にわたって詩を書き続けている日本で最も有名な詩人であると同時に、日本にはほとんどいない詩作で生計を立てているホンモノの?詩人だ。私も何冊か詩集を持っているし、好きな詩もいくつかある。
自選詩集は1968年以来で、すでに2千篇を越えた膨大な詩の中から、世間の評価とは関係なく、有名は詩だけに偏らないように自分の目線で詩を選び173篇を集めたという。
今日、午前中に林農園さんに地粉で作ったクッキーを持って行き、今後の打ち合わせをした。林さんは毎週土日に川村美術館の一角で有機野菜を売っているので、3月末からはクッキーも一緒に販売していただく予定だ。文庫本を持って歩いていたので帰りにカフェに立ち寄り、久しぶりに俊太郎さんの世界を堪能した。
言葉遊びの詩は黙読するより音読する方が面白い。教科書に何篇も詩が載っているけれど、子供の心をとらえて離さないリズム感ある言葉のマジック。いつまでも少年の心を持った多面的な人なのだろう。
だが少年の心とは裏はらに深い孤独も抱き合わせている人だ。詩の中には俊太郎さんの孤独と苦悩、愛を渇望する叫びのようなものも潜んでいる。
それがふっと孤独な読者に伝わった時、詩の言葉は真綿のような優しいベールに変身していく。言葉の持つ力。やはり私たちは言葉の世界の中で傷つきながらも、言葉によって癒され、言葉によって思考を育んでいく生き物なのだと思う。
詩の一部だけを切り取ることは作者の意図に反することかもしれませんが、その世界の一部をご紹介したいので、ほんの数行ですが作品を抜粋します。
「静けさはいくつものかすかな命の響き合うところから聞こえる
虻の羽音 遠くのせせらぎ 草の葉を小さく揺らす風・・・
いくら耳をすませても沈黙を聞くことは出来ないが
静けさは聞こうと思わなくとも聞こえてくる
ぼくらを取り囲む濃密な大気を伝わって
沈黙は宇宙の無限の希薄に属していて
静けさはこの地球に根ざしている」(夕立の前)
「詩はなんというか夜の稲光りにでもたとえるしかなくて
そのほんの一瞬ぼくは見て聞いて嗅ぐ
意識のほころびを通してその向こうにひろがる世界を
それは無意識とちがって明るく輝いている
夢ともちがってどんな解釈も受けつけない
言葉で書くしかないものだが詩は言葉そのものではない
それを言葉にしようとするのはさもしいと思うことがある
そんな時ぼくは黙って詩をやり過ごす
すると今度はなんだか損をしたような気がしてくる」(理想的な詩の初歩的な説明)
「目を覚ました娘が隣に座った青年にほほえみかえた
そのほほえみを支える物語をぼくは知らないが
口をつぐんでお互いの目の中をのぞきこむ時のあのやすらぎ
その一瞬のためにこそ人は語りつづけるのだとしたら
この今がぼくらの共に過ごした年月と釣り合っていることを
あなたも認めてくれるにちがいない
そのために費やされた言葉をすっかり忘れてしまったとしても
それらの言葉のもたらした感情は哀しみも喜びも怒りもひとつに
この束の間を永遠に変える力をもっている」(TGV a Marselle)
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