東大寺二月堂修二会〜早春の奈良
奈良の寺社が好きでもう何度も足を運んでいるけれど、まだ一度もお寺の行事やお祭りを見たことがなかった。今回、奈良に春を告げる東大寺のお水取り、正しくは東大寺二月堂修二会(しゅにえ)を見てきた。
天平勝宝4年に始まって以来、一度も絶えることなく続けられ今年で1262回目となるという。
期間は3月1日から14日までの2週間。この間、夜ごと行を勤める練行衆(れんぎょうしゅう=修二会に参加する僧侶のこと)を二月堂に導くため大きな松明に火が灯される。
特に3月12日深夜(13日午前1時頃)は、若狭井(わかさい)という井戸から観音さまにお供えするお香水(おこうずい)を汲み上げるお水取りの儀式が行われるため見物客が集中する。私は11、12日と二晩見に行ったが、12日は始まる前から行列ができておりすごい人出。一度に見られないため松明が灯されるのに合わせて少しずつ前に進みながらの見学となった。
ほとんどの人は松明を見たらさっと帰っていくのだが、実はこの修二会はその後が本番だ。一年間の罪を万人に代わってご本尊である十一面観世音菩薩に悔い、天下泰平、五穀豊穣、万民快楽(ばんみんけらく)などを願って祈りを捧げるお勤めが二月堂で始まるのだ。
本堂で行われている行の様子は麻布に覆われて見えないけれど、中の神燈に火が点され、その灯りや練行衆の影が麻布を通してぼんやりと見える。声明やホラ貝が響き、床を踏み鳴らす練行衆の木ぐつの音や声だけが聞こえてくるのだが、全てが見えないだけにかえってそれが神秘の世界へと引き込まれる。
その時、最初に読み上げられるのが「神名帳」だ。全国のお寺や神社の神様の名前をお呼びし、ご加護を得るために集まっていただく。同時にその練行衆の声を聴こうと聴聞者たちも二月堂の回廊に集まってくる。修二会の期間中、東大寺は国中の神々が集う荘厳な場所となる。
修二会が1200年以上も途切れることなく毎年、繰り返されてきたなんて、気が遠くなるくらいすごいことだ。最終日の今日は全ての松明が回廊に並ぶそうだが、さすがにそこまでは滞在できないので、見ることはできなかったけれど、さぞ今夜の東大寺は多くの人で賑わったことだろう。
日中は五條にある賀名生(あのう)梅林に梅を見に行ったり、さらにその奥にある後醍醐天皇を匿った歴史ある古民家を修復したレストラン「王隠堂」に食事に行った。
菜の花やノビル、ぜんまいなど、周辺の山で採れた野のものと、かまど炊きのご飯がかつてお屋敷で使われていた骨董の器に盛りつけられていてとても美味しかった。
奈良に春を告げる伝統行事東大寺お水取り。耳に残っているのは練行衆たちの心地よい響きの声や木ぐつの音だ。これほど長い間、同じ場所で同じ祈りの言葉を唱え続けられている東大寺。言霊や音霊の力によって、自ずと不動の存在感と圧倒的な力のようなものが備わっていったのだろう。
少し早い奈良の春。とてもいい時間だった。
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