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June 20, 2013

しむらのいろ

染織家の志村ふくみさんと娘の洋子さんの写真集「しむらのいろ」(求龍堂)を読んだ。植物染料と紬糸で織る素晴らしい作品の数々が散りばめられているうつ本だ。ふくみさんは重要無形文化財保持者(人間国宝)となり文化功労者にも選ばれている。機織りという工芸がもはや芸術の域に達してしまった。
現在、お二人は京都嵐山の「都機(つき)工房」で創作の傍ら、今年から、芸術、教育、文化などを織物を通して総合的に学ぶ場所「アルスシムラ」を創設。芸術を通して自然と向き合い、魂の教育をしていく場を目指しているという。
丹精こめて作られた作品には「藍の湖」「雨月」「花散里」など一つ一つに寄り添うような美しい名前が付けられている。どの作品もため息ができるほど美しい。それらを何気ない自然の風景の中に置き、光と共に写しているのは大石芳野さん。土門拳賞などを受賞し、戦争や内乱の中で逞しく生きる人々を追うドキュメンタリー写真専門のカメラマンだ。
私が一番、印象に残ったのは本の中に収められていた芳野さんの「闇から蘇った色彩」というエッセイだ。
70年代のカンボジア。ポルポト政権時代、多くの自国民が虐殺された。色彩を使うことも禁じられ多くの民が黒一色の衣装を強制され、鮮やかな色彩の植物も伐採されたという。その間15年、芳野さんはカンボジアに通い続けた。
ポルポト政権が崩壊した直後、ある農家から機織りの音が聞こえてきたという。復興にはほど遠く、人々はまだ食べることさえままならないという状況の中、簡素な機織り機を組み立てて、昔ながらの方法で美しい色彩の糸をかけ機を織っていた女たちに出会った。
闇一色の時代からようやく彼らの暮らしに色が戻ってきた・・・色彩豊かな感覚を取り戻すこと、それは平和の象徴でもある。その姿を見た時、芳野さんは心臓の鼓動が聞こえそうなほど感動したと書かれていた。
当たり前にある色、植物から醸し出される色・・・それが状況によっては平和と幸せのシンボルにもなり得るということ。
色彩とは光であり生命の根源であるというシュタイナーの「色彩の本質」と出会ったことがきっかけとなり工房を設立させたというお二人の思いと、芳野さんのカンボジアでの体験は深くつながっているのだなと思った。
そんな芳野さんの戦渦の写真集の中からさらに深い色を探ろうと心の目で写真を眺める染織家の母と娘。
最初、このお二人の作品集をなぜ戦場カメラマンが?と思ったが、この作品集はまさに大石芳野さんだからこそ写し得た色彩の世界だったのだろう。
英訳付きのとても美しい本でした。ぜひお手にとってご覧になってくださいね。

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