火鉢のある暮らし
お座敷に座って火鉢にあたっている。昔から古いものが好きで箪笥や文机などを集めてきた。それらは今まで暮らしてきた普通の新建材の家の室内に置いて使っていた。どことなくアンバランスな感じがしないでもなかったが、それでも古いものが新しいものと仲良く並んでいるのを眺めているのが好きだった。でも彼らがいちだんと輝き始めたのは、この古民家に移り住むようになってからだ。
木製の冷蔵庫や古い食器棚などがあまりにもしっくりと古民家に溶け込んでいるので、お客様にも「最初からここにあったものですか?」と聞かれることが多い。もらったり拾ったり、時には骨董市で買ったりした古道具たちが、まるで古巣に帰ってきたかのようにごくごく自然に古民家の中に佇んでいるのだ。
今まで火鉢もいくつか集めてきた。でも密閉性の高い室内で使うには危険も多いので、火入れをすることはなかった。時には傘立てにしたり植木鉢代わりに使ったりして楽しんでいた。
でも最近は違う。友達が灰の入った小ぶりの火鉢と鉄瓶を持ってきてくれたので、実際に炭を起こして暖をとるようになったのだ。パチパチと起きた炭をしっかりと火鉢の中に並べると数時間は持つ。古民家はあまりにも広いので、火鉢だけで部屋全体を温めることはとてもできないが、寒い部屋の中にちょっとだけ温かい場所が生まれる。
燃えている炭の上に手をかざすととても温かい。パチパチと起こした煙たい炭の匂いや嗅いでいると、火鉢でお餅を焼いてくれた祖母のことを思い出す。私は火鉢の前に座り、大好きな祖母が器用に火箸を使って網の上でお餅をひっくり返すのをずっと眺めていた。焼けるとマンガの吹き出しのようにぷわ〜っとお餅が膨らんでいく。それを見る度に私と弟は毎回歓声をあげて喜んだ。うっかり火鉢の縁に触れたらやけどをするほど熱かった。昭和40年代の前半はまだ都会でも火鉢や七厘や豆炭の行火(あんか)が一般の家庭でも使われていたのだ。
いつのまにか使われなくなってしまった火鉢を久しぶりに使うようになって、寒い夜、部屋に火鉢があることのぬくもりのようなものを楽しんでいる。黒い炭に火がつくと赤い網の目状に小さな灯りが広がっていく。赤い炭はとても美しい。隙間風だらけの古民家だから一晩中つけていても中毒になることはなさそうだ。
友達が来ると鉄瓶の中で日本酒をお燗する。食事の後には鉄瓶で沸いたお湯で日本茶をいれる。そこには何とも言えないゆったりとした柔らかい時間があって寒さがほんの一瞬だけ和らいでいく。いいな火鉢のある暮らし。
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